1990年9月14日 アメリカ合衆国 ユタ州ソルトレイクシティにて。



この日、毎年恒例の"Bonneville National Speed Trials"と呼ばれる最高速記録を争う競技が開催され、
ゲール・バンクの駆るLSR(Land Speed Record) Sycloneが見事、最高速度210.069 mphを達成し、
4つの世界記録及び5つのアメリカ国内記録を塗り替え、世界最速のピックアップ・トラックと認定された。




因みにこのLSRは総重量1,626kg、エンジンは、ノーマルの4.3リッターV6から5.0リッター (NA) へとボアアップされ
最高出力549hp@7200rpm /最高トルク56.8kgm@6000rpm (トルク曲線はSycloneとほぼ同等) 、
トランスミッションは、Trans-Amの5速マニュアルミッションを搭載していた。


LSR Sycloneの最速記録達成をPRした当時のポスター













LSRのワールドレコード樹立より以前、1988年頃。

GMC社のゼネラルマネージャーのジョン・ロックの下で働いていたキム・ニールセンという若い男は、
GMCトラックのディビジョンに若い客層を会得する為にも、GMCにハイパフォーマンスカーが必要な事を考えていた。

1989年のモーターショーに参考出品された Buick "Syclone"
エンジンはGrand Nationalの3.8L Turboで2WD、0~400mタイムは12.57秒(174km/h)


しかし、彼にはそのハイパフォーマンスカーを作るだけのソースやリソースを、その時はまだ持ち合わせてなかったが、
これから作ろうとするクルマを、今まで誰も見た事がなく そして忘れたくても直ぐに忘れられない様な
特別なクルマにする事によってセールスを伸ばせると確信していた。

そして、これが今まで誰も見たこともない最も過激なクルマが、メーカーのアッセンブリーラインから産み出される事になる起点であった。
この噂を聞きつけたメディアが、まだ噂の段階と明記しながらも、全米一クイックなクルマがクーペではなくトラックとして、
GMCからSycloneという名で今年 (1990年) 発売されるという内容の記事を発表。


このキム・ニールセンの構想は、ジョン・ロックの助けもあり、特別な技術を有したエンジニア達と
P.A.S.社 (Production Automotive Systems) の協力を得る事によって現実のものとなった。


P.A.S.社ロゴ

GMCとP.A.S.は、この構想を実現するためのコアとなるエンジンを GM製4.3リッターV6エンジンに決定し、
そのエンジンにターボチャージャーを付け馬力を大幅に上げ、水冷インタークラーで その熱せられた圧縮空気を冷やす事に決定。

これでエンジン部は、ほぼ全て決定した。


V6 4.3L Turbo Sycloneエンジン


しかし、そのエンジンから生み出される多大な馬力(280~330hp)を通常のFRのプラットフォームに搭載してしまうと、
他のメーカーが作っている、単純なハイパフォーマンスカーと同様に、いとも簡単にタイヤをスピンさせてしまう結果になる。

それではこの特別な構想を満たすクルマを作り出せないと感じた彼等の出した答えは、
駆動形態はOldsmobile製 Safari/BravadaのAWDシステムを採用し、
トランスミッションには、ハイパフォーマンスな性能と 燃費の両面を考え、当時コルベットに使われていた700R4を採用。
そしてこの加速の鋭いクルマを確実に制動させる為に4輪全てにABSを奢った(これはS10/S15トラックでは初の採用であった。) 

その特別なエンジンとドライブトレーンを覆うボディは 軽く、それでいて攻撃的で
誰もが予期できないデザインを採用する必要性を彼等は感じていた。

Syclone用ドライブトレーンに採用されたOldsmobile Bravada Syclone用ベース車両に採用されたGMC Sonoma

そこでボディはGMC社製のクルマの中で一番軽く丈夫なSonoma (レギュラーキャブ・ショートベッド) が採用される事に、
そのボディには何か加工が必要と考え、P.A.S.のビル・デイビスがグランドエフェクトを手掛けた。

Sycloneのエクステリア Sycloneのインテリア

外装は、サスペションをロワードし、タービンをモチーフとした16インチのホイールにFirestone社のSVXタイヤを履かせ、
ベッドにはトノカバーを取り付け 灰墨の黒色がボディーカラーに採用された。

内装は、バケットシートとスポーティーな内装を加えつつ、純正のA/C・PW・PDL・TW・CCも備えていた。
そして特別なゲージクラスターも取り付けられた。

上写真のPONTIAC "Turbo Sunbird" 用のゲージクラスターが
当初プロトタイプSycloneに取り付けられていた
SyTy用プロダクション (完成) デザイン
これはプロトタイプ (~140mph) のゲージクラスター

そして完成したこのトラックは、市場に出れば人々をかき回すだろうと考えGMCは敢えてCycloneではなくSycloneと名づけた。
(一説には2wdトラックをS、4wdトラックをTと分類していた為、敢えてサイクロンにSの頭文字を起用したとも言われている)
そのパフォーマンスに関して、公式には0〜100km/h加速は4.3秒、0〜400mタイムは13.5秒(終速158.4km/h)と発表されている。

当時のSycloneの広告。 "Sycloneはスポーツカーです (とても速いので、スポーツカーとして考えよう) " という趣旨の文句が大々的に掲げられている。
尚、ベッド部に馬を載せているのは、当時P.A.S.の副社長マイク・ポカベロ氏が大馬主だったらしく、彼の愛馬を広告に起用したと言われている。


尚、Sycloneは1991年の1年間しか公式には製造されておらず、総生産台数は2995台とされている。


余談として、この年 丁度湾岸戦争が勃発しガソリンの値段が急騰。その結果多数のSycloneが売れ残った。
ルイジアナ州の、あるディーラーでは400台以上も店頭に売れ残った。
その多くの売れ残りが、大幅な値引き ($5000~9000)がされ、在庫処分された。
各地のGMCディーラーのSyclone値引き広告













1991年。

同社のルイス・キャンベルはロックとニールセンがスタートしたこのプロジェクトを拡張し持続させたいと感じていた。

その為に先ずSycloneでは満足できない顧客の為に、また違った分野にこのパフォーマンスを纏ったクルマを登場させようと、
この頃にわかにではあるが、徐々に脚光を浴びてきてたS.U.V.に焦点を合わせ、
これも必然的にGMC社製の中で一番軽く丈夫な2ドアのJimmyにSycloneのパワープラントを移植し、
より日常の足としてユーザーに使用してもらう事に決定した。

次期Sycloneのベース車に選ばれた、GMC S15 Jimmy
次期サイクロンを想定したスケッチ 当初4ドアも画策していた

そしてJimmyの内外装もまた、スポーツモデルとしてデザインしなおす事になり、
そこで、まず外装は、グランドエフェクトとホイールをSycloneと同じタイプのものに決定した。

P.A.S.にて粘土でグランドエフェクトを製作しテストフィットさせている写真。
フォグやパークレンズは紙に描かれた絵が貼り付けられている。

(写真はwww.RKKustom.comより抜粋
)

GMCはこのクルマの為に特別に、ロワード・エアサスペンションと各種カラーバリエーションを設定した。
内装は、その過激なパフォーマンスに加えつつ、他のS.U.V.車との差別化を図り、
ランバーサポート付き (腰部のエアサポート) のバケットシート、フルレザーインテリアとし、スタイリッシュで快適なS.U.V.を目指した。 

そして勿論Sycloneと同様に純正のA/C・PW・PDL・TW・CCの装備に加えパワーミラー、
その他CDプレーヤーやルーフラック等のSycloneにはなかったオプション設定を備えていた。 

Typhoonのエクステリア Typhoonのインテリア

それに限らず、1.7mもの広大なカーゴスペースは今までの一般的なパフォーマンスカーには無かったスペースであり、
GMCは、Sycloneがマーケットに起こした衝撃と同じような衝撃をこのクルマも起こすと考え、SycloneにあやかりTyphoonと命名した。

Typhooは1992年と1993年の2年間のトータルで一般的に4700台のみしか製造されていないと言われ、
その速さと比例して 比類なきレアなクルマになった。

Sycloneよりも140キロ程重いTyphoonではあったが、パフォーマンスに関し公式には
0〜100km/h加速は5.3秒、0〜400mタイムは14.1秒(終速152km/h)と発表されている。











1991年にSycloneの生産が終了が決定し、翌年からS.U.V.ボディのTyphoonの生産が決定した頃、
GMCは、大幅な値引きを断行し Sycloneの大量在庫処分をしていたが、
依然 高値なSycloneを購入したくても購入できない購入希望者の為に、
Sycloneの様なスポーティな外観で、Sycloneより安価なトラック "Sonoma GT" を発売した。

その総生産数は1991年に1台、1992年に806台となっており、SycloneやTyphoonよりもレアなトラックとなっているが
如何せん、その非力なエンジンの為 ユーザーからの不満が噴出していた。


Syclone & TyphoonとSonoma GTの主な違いとしては以下の通り。

1. Sonoma GTは ハイアウトプットのシングルポート・インジェクション 4.3L V6 エンジン
(Syclone & Typhoonは マルチポート・インジェクション 4.3L V6 Turboチャージャー エンジン)
2. Sonoma GTのベース車両は通常のSonomaが採用されていた為 LSD付の2WD
(Syclone & TyphoonはLSD付のAWD)
3. Sonoma GTはベース車のSonomaと同じ車高
(Sycloneと'92 TyphoonはSonomaと比べ2インチ ロワード、'93 Typhoonは3インチ ロワード)
4. Sonoma GTはTyphoonと同様のPower Mirror が標準装備。SycloneはManual Mirror設定のみ
5. Sonoma GTはSycloneや'92 Typhoonの様な、シート頭部に車名の入った刺繍設定なし
6. Sonoma GTはTyphoonと同デザインのステアリングホイール装備
7. Sonoma GTはリア・スライドウィンドウのオプション設定あり
(Sycloneのリアウィンドウははめ込み設定のみでオプションなし)
8. Sonoma GTはサンルーフのオプションあり
(Syclone & Typhoonにはサンルーフのオプション設定はなし)
9. Sonoma GTのグランドエフェクトはSycloneと フロントバンパー、フロントサポート、
リアロールパンと左右のリアコーナーを共有しているが、Sycloneの様なフェンダー及びドアパネル下部等の、
サイド部全般のグランドエフェクトは取り付けられていない
その他、Sonoma GTの助手席側リアコーナーはモルド処理されており、そこからマフラーエンドが出てきている
10. Sonoma GTはSyclone & Typhoonと、ほぼ同じデザインのゲージクラスターを装着
唯一の相違は、RPMタコメーター部分にターボ計が付いていない
11. Sonoma GTはSycloneの様に黒色のみの設定ではなく、以下の5色の設定
- Apple Red / Argent Grey (WA-7475)
- Frost White / Argent Grey (WA-5111)
- Bright Teal / Argent Grey (WA-9830)
- Midnight Black / Black (WA-5118)
- Aspen Blue / Argent Grey
(WA-9222)
12. Sonoma GTもSycloneも、最終ロットが製造されたのは、P.A.S.デトロイト工場












P.A.S.社はマイアミ州トロイに本社を置き、1991年にSyclone、1992~93年にはTyphoonを製造する以前にも、
1982~87年までBuick Grand Nationalの空冷インタークーラー ターボ・エンジンを、1989年にPONTIAC Turbo Trans-Amを製造していた。
1987年 Buick Grand National 
1
982~87年(83年を除く) まで、計30,022台の
空冷インタークーラー式 V6 3.8Lターボエンジンを開発製造
1989年 PONTIAC Turbo Trans-Am
同年Trans-Am20周年を記念し、計1555台を製造販売
左写真のGrand Nationalとエンジンを共用


しかし、1993年にはTyphoonの製造中止が決定し、GMが同社との契約更新をしなかった為、翌1994年には倒産。


この契約更新をしなかった理由としては、当時 急務とされていた電気自動車やプロパンガス車等の
GMとの合同プロジェクトでの失敗や事故に因る所が大きいといわれて、Syclone & Typhoonの売れ行き不振 が原因ではなかった。
というのも、Syclone & Typhoonは当初より限定車として製造販売される計画だった。
(一方では、GMは今後Sycloneを年間15,000台製造販売するプランがあったとも言われている。


P.A.S.が倒産した際、同社に保管されてあった、ショールームコンディションのプロトタイプSycloneやTyphoonも
一般に登録抹消車扱いで売りに出され その中には、
1991年製プロトタイプTyphoon (総生産数 計4台) 4台も含まれていた。



余談だが、その売りに出された1991年製プロトタイプ Typhoon 全4台の内の1台、
下写真のAspen Blue / Argent Grey (WA-9222)は、映画「Lethal Weapon III」に3秒間程 登場している。
















Sources from www.syty.org, www.syty.net, www.sportsmachines.com, www.rkkustom.com and more. from other sites.
This page was last updated on 03/26/04
For problems or questions regarding this web contact here.